だから備忘録。

観たものの記録。

2017/11/22 光より前に

11/22 光より前に〜夜明け前の走者たち〜 メモ


円谷幸吉さんという方のことを、存じ上げなかった。東京オリンピックで銅メダリストとなりながら、たくさんの「美味しゅうございました」で綴られる遺書を残して自殺したマラソン走者だ。パンフレットを読むに、30代のキャストよりも上の世代の人は、きっと何処かで知っているだろう、それほど強烈で、悲壮な最期だったらしい。

本作は、彼の人生をそのまま描いたものではない。円谷幸吉と対照的な君原健二というマラソンランナー、二人を主軸として、「走る」とは何かを描き出した物語………だと思います!



とにかく印象に残ったのは舞台美術。移動し、組み合わせを変え、時には裏面を見せて場面を作り上げ、さらにそこに映像を投影して舞台に様々な空間を作り上げていたのに大変感動した。特にオリンピックのシーンでは、バトンからたくさんのテレビも降りてきて、背景とテレビに中継映像を照らすとともに、声援や実況などの音響によって臨場感ある場面を作り出した。思わず手に汗を握り、声援とともに円谷さん、君原さんを応援してしまった。映像は中継だけでなく、抽象的なものや激しい雨など、その状況に合ったものだった。マラソンの最中、走っている本人は明確な映像など瞳に映らないように思うが、それが抽象的な映像に反映されていたと感じる。

また、照明は特に派手なものではなかったが、とても綺麗で効果的だったように思う。特に君原さんと風鈴のシーンでは、舞台美術に反射する夕焼けの光と、淡い青に映る人物の影がとても素敵だった。


脚本は緊張と笑いに緩急が付いており、また円谷さんと君原さんがわかりやすく対比された構造で観やすく理解しやすい。狂言回しがいたことで、東京オリンピックおよび二人のランナーについて知らなかった私でも当時の状況や関係性が掴めた。


そしてなにより、キャストの方々の演技に心を揺さぶられたのだ。

宮崎秋人さんは、真面目がゆえに破滅してしまう円谷さんを演じた。お辞儀の仕方や声の張り上げ方からも真面目さを伺うことができ、そこに説得力が生まれていた。二通の遺書の読み上げの際、「すみません」と「美味しゅうございました」それぞれに合わせたのか、まったく読み上げ方が違ったのがとても印象的だった。

木村了さんは時にコーチに反発する君原さん役。その反発の中にも愛情があるように思った。そして亡くなった円谷さんとの邂逅の場面に涙しました。

中村まことさん演じる宝田さんは、二人のランナーの心の支えとなる存在に見えた。円谷さんに「入院しろ」と言うシーンは、宝田さんが心から心配していることがわかるからこそ、周りから叱られないと…と言う円谷さんの辛さ・悲哀さがより一層深まったんだろうなあ。

高橋光臣さん演じる高橋コーチは、お茶目な面も多くあり会場が笑いで包まれていた。作中における君原さんと高橋コーチの関係性は、そんな高橋コーチの茶目っ気がいいバランスで影響したんじゃないかなと思う。

和田正人さん演じる畠野コーチは、円谷さんのコーチであると同時に兄のような存在に映った。それはきっと台本上に描かれたお話だけでなく、和田さんの役作りのおかげでもあると感じた。

円谷さんが自殺するシーンで、和田さんが鏡像ように円谷さんの動作をなぞり、途中からそれが畠野コーチへと変わる瞬間とにかくゾッとした。ここのキャストの演技とともに、鏡像のような演出の発想に感動した。

作品を通して、昭和という時代の、東京オリンピックや円谷さん、君原さん等を知らない私でも肌で当時の状況を感じられた。そして、二人のランナーの生き様と、それを通して走るとは何か?というある種の普遍性を持ったテーマをみた。完成された芝居って、こういうことを言うんだろうなあ。ハラハラし、ドキドキし、ゾッとし、笑い、涙し…ギュッと詰まった2時間だった。


アフトは帝一の國で木村さんと共演した三津谷さんがゲストでした。楽しかった!病んでだなんて思いもしなかった…